経済事件簿〜七つの顔と放漫経営〜 


筆者は経済情報誌の取材記者であるが、忘れられない取材エピソードがある。
数年前、2回目不渡り発生(事実上の倒産)との情報が入り某企業へ取材に走った。
事務所では既に社長が債権者に囲まれ責められている。
あろうことかその社長は警察に助けを求める電話を入れたらしく、
所轄の刑事が2名やってきた。
勿論、刑事は双方の話は聞いたが、やはり"民事不介入"の鉄則通り。
「倒産させて迷惑かけているのだから社長が悪いんじゃないですか?」
とこぼしながら帰っていった。
その後、警察を呼んだことで債権者は更にヒートアップ。
かなりの暴言を発する者も多く騒然とした状態となった。
隙間を縫って常務に別室で取材対応してもらったが同氏も既に呆れ顔。
「負債総額及び内訳は?」と質問すると、負債総額はわからないと云う。
それもそのはず何と企業の顔である決算書が7通りも存在していた。
「社長本人もどれが本当の決算書かわからないのですよ...。」
また、苦しい時に助けてもらったことがあるからと、
何十枚という白地手形に会社実印等を押して某建材商社に融通。
同社の破綻に伴う連鎖倒産であった。
今まで幾多の企業を取材したがこのエピソードに勝る放漫経営は記憶にない。
その一年後、あまりにもお粗末な経営者は贈賄で逮捕された。